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一九世紀の日本の出来事

一九世紀の始まる享和元年(一八〇一)、オランダ通詞志筑忠雄は、ケンペルの大部な著作『日本誌』の一部を『鎖国論』として訳出した。一九世紀における幕府が、まさにこの「鎖国」をめぐる争いに敗北して倒壊したことを思えば、象徴的な出来事だった。三代将軍家光のときに完成した「鎖国」は、諸外国との交際をすべて禁ずるものではなく、イスパニア船の来航を禁じ、次いでポルトガル船を追放して来航を禁じたものにすぎなかった。オランダ船は長崎出島へ来航していたし、中国船も同様であった。これらは通商のみの関係であったが、朝鮮とは対馬藩を介した貿易だけでなく、確かな国交があり、将軍の代替わりごとには通信使を受け入れていた。ただし、朝鮮通信使は文化八年(一八一一)を最後に来日しなくなるが、薩摩藩が引率する琉球使節がその代役を果たした。

しかし松平定信がロシアに対し、国法に基づき新たな国交を開くことができないと回答したことにより、日本が従来、関係をもつ国以外と国交を開くことは重大な国法違反と認識されることになった。ロシアは、クリミア戦争などの影響で日本との交渉が間遠(まどお)となるが、新興国であるアメリカは、日本の開国を積極的に図ろうとしていた。

幕府は、天保二年(一八四〇)、中国で起こったアヘン戦争の情報を得て、海防強化が急務であることを認識していた。しかし、改革政治を行なっていた老中水野忠邦が失脚し、さしたる海防強化策がとられないうちに、オランダ国王からアメリカの来日計画を知らされ、ついに嘉永六年(一八五三)のペリー艦隊の来訪を受けるのである。日本の開国を要求するペリーの態度は強硬で、幕府は翌年、日米和親条約を締結せざるを得なくなる。

強大な軍事力を有すると見なしたアメリカとの戦争を回避するため開国要求を受け入れたことは、やむをえない判断だと思われる。しかし、幕府が「武威」の国であったことを思い起こせば、これは重大な汚点となった。逆にいえば、「武威」の国であることにより、幕府は外国との戦いに負けるわけにはいかないから、開国、通商と譲歩に譲歩を重ねていく必要があったりそうした過程そのものが、幕府がすでに「武威」をもちえていないことを示していたのだが、幕府にとっては戦いに敗れることによって「武威」の崩壊を明白にすることはできなかったのである。そのうえ、政権を担当する者として、負けるとわかっている戦いを行なうという無責任なこともできなかった。その意味では、ひじょうに現実的な選択だった。

しかし、尊皇撰夷派は、吉田松陰にみられるように、戦って敗北することにより新たな道が開けるという冒険主義的で無責任な立場に立つことができた。そうした立場から攻撃することによって、しだいに幕府を追いつめていったのである。この政治過程において、天皇権威の上昇は興味深い。本来、外国と条約を結ぶとき、勅許(ちょっきょ)などは必要なかった。しかし、幕府は諸大名の合意を得るため、勅許を利用しょうとした。これが、逆に天皇の政治的地位を高めることになったのである。

ところで、天下泰平に慣れ遊惰(ゆうだ)に流れていたはずの武士たちが、なぜこの時期、突然活発化し、血みどろの紛争に身をゆだねることが可能だったのだろうか。これは天下泰平で凍結されていたとはいえ、なお武士は、家庭や藩社会のなかで戦闘者であることを教育され、要請されつづけていたからだと思われる。倒幕派にせよ左幕派にせよ、中心となったのが薩摩藩・長州藩・会津藩など厳しい武士道で有名な藩だったのは偶然ではないのである。

西暦 和暦 月・国内の出来事 天皇 将軍 世界の出来事
1801 享和1 8 志筑忠雄、ケンペル著『日本誌』の抄訳『鎖国論』成る。 光格(在位1779~1817) 家斉
(在職1787~1837)
1801 大ブリテン王国とアイルランド、連合王国となる。
1802 享和2 2 蝦夷地奉行を設置(5月、箱館奉行と改称)。
この年、近藤重蔵、択捉島を視察。 1804 世界で最初の黒人共和国ハイチが誕生。
1804 文化1 9 ロシア使節レザノフ、長崎に漂流民を護送し、通商を要求。 (仏)ナポレオンが皇帝に即位、第一帝政開始。
1805 文化2 6 関東取締出役(八州廻り)を設置。 1805 トラファルガーの海戦。
1806 文化3 1 文化の撫恤令。関東郡代を廃止。 1806 神聖ローマ帝国消滅。
9 ロシア船、樺太の松前会所を襲う。
1807 文化4 3 東西蝦夷地を幕府直轄とする。 1807 (仏)ナポレオン、大陸封鎖令を出す。
10 箱館奉行所を松前に移し、松前奉行と改称。 (米)フルトン、蒸気船の航行に成功。
1808 文化5 4 間宮林蔵ら、樺太を探検。
8 イギリス軍艦フェートン号、長崎に侵入。
1809 文化6 この年、江戸伊勢町に米会所設置。蘭船入港中断。 1811 ベネズエラ・パラグアイがスペインから独立。
1810 文化7 2 会津・白河藩、幕府より相模・上総・安房沿岸に砲台設置を命じられる。 1812 ナポレオン軍、ロシアに侵攻。
1811 文化8 5 朝鮮通信使来日、対馬で応接(最後の通信使)。 1813 ライブツィヒの戦いでナポレオン敗北。
6 ロシア人ゴロウニンを国後島で捕縛。 1814 ウィーン会議。
1813 文化10 3 江戸十組問屋を公認、新規加入を禁じる。 スティーブンスン、蒸気機関車を試運転。
1814 文化11 10 箱館・松前を除く蝦夷地守備兵の撤兵を命ずる。 1815 ワーテルローの戦いでナポレオン惨敗。
1816 文化13 10 イギリス船、琉球に来航、通商を要求。 1816 アルゼンチン、スペインから独立。
1819 文政1 5 イギリス人ゴルドン、浦賀に来航し通商要求。 仁孝
(在位1817-46)
1819 英、シンガポールを領有。
1821 文政4 12 松前奉行を廃止し、東西蝦夷地を松前藩に還付。 1821 ギリシャ独立戦争始まる。
1823 文政6 7 オランダ商館医ドイツ人シーボルト、長崎に着任。 1822 ブラジル、ポルトガルから独立。
1824 文政7 5 水戸藩、常陸大津浜に上陸した英捕鯨船員を捕縛。 1823 (米)モンロー主義を宣言。
1825 文政8 2 異国船打払令。
1827 文政10 この年、調所広郷、薩摩藩の財政改革に着手。
1821 文政11 10 シーボルト事件。
1830 天保1 この年、伊勢御蔭参り大流行。 1830 (仏)七月革命。
1832 天保3 この年、村田清風、長州藩の藩政改革に着手。 1833 (英)一般工場法成立。
1833 天保4 4 天保の大飢饉始まる。
1834 天保5 2 江戸大火。
1836 天保7 この年、全国飢饉。打ちこわしが激化。
1837 天保8 2 大坂で大塩平八郎の乱。
6 アメリカ船モリソン号を砲撃(モリソン号事件)。 家慶
(在職1837~53)
1839 天保10 5 渡辺華山、高野長英ら捕らえられる(蛮社の獄)。 1838 (英)チャーティスト運動。
1840 天保11 11 川越・庄内・長岡の三藩に三方領知替を命ず。 1840 アヘン戦争。
1841 天保12 5 天保の改革始まる。
12 各種問屋仲間・組合を禁止(株仲間解散)。
1842 天保13 5 諸物価引下令。
7 異国船打払を緩和、薪水・食糧の給与を許可。
10 大名の専売制を厳禁。
1843 天保14 3 諸国人別改を命じ、江戸より帰村を命じる。
6 江戸・大坂十里四方上知令。印旛沼干拓に着手。
9 上知令を撤回。水野忠邦、老中を罷免される。 1848 (米)ゴールドラッシュ始まる。
1844 弘化1 7 オランダ国王、開国を勧告(翌年、拒否)。 (仏)二月革命により第二共和政開始。
1846 弘化3 3 筒井政憲、幕府諮問により海防意見書を提出。 孝明
(在位1846~66)
(独)マルクス、『共産党宣言』を発表。
5 アメリカ東インド艦隊司令長官ピッドル、浦賀に来航、通商を求める。 1849 (英)航海法廃止。
1851 嘉永4 3 株仲間の再興を許可。 1851 (清)太平天国の乱。
1853 嘉永6 6 アメリカ東インド艦隊司令長官ペリー、国使として浦賀に来航。 (英)第1回ロンドン万国博覧会。
7 諸大名に開国の可否を諮問。 家定
(在職1853~58)
1852 (仏)ナポレオン3世が皇帝に即位し、第二帝政開始。
ロシア使節プチャーチン、長崎に来航。 1853 クリミア戦争始まる。
1854 安政1 3 日米和親条約締結。
4 京都大火、禁裏御所炎上。
1855 安政2 7 長崎に海軍伝習所を設立。
10 江戸大地震(安政の大地震)。 1856 (清)アロー号事件。
1858 安政5 2 老中・堀田正睦、参内し日米通商条約勅許を奏請(翌月、朝廷は拒否)。 家茂
(在職1858~66)
1857 (印)シパーヒー(セポイ)の反乱。
4 井伊直弼、大老となる。 1858 清、霧とアイグン条約。
6 日米修好通商条約調印。慶福(家茂)を将軍後継に。 清、露・米・英・仏と天津条約を締結。
9 安政の大獄始まる。 英、インドの直接統治を開始し、ムガール帝国滅亡。
1860 万延1 2 戚臨丸(艦長勝海舟)、太平洋を横断丁目出航(1月出航)。 1859 (仏)レセップス、スエ産運河の開削を開始。
3 大老井伊直弼、暗殺される(桜田門外の変)。 1860 (清)英・仏連合軍、北京を占領。北京条約締結。
1861 文久1 5 イギリス公使館、浪士に襲撃される(東禅寺事件)。 1861 (露)農奴解放令。
1862 文久2 2 家茂と和宮の婚儀。 イタリア王国成立。
8 薩摩藩士、イギリス人を斬る(生麦事件)。 (米)南北戦争始まる。
1863 文久3 3 家茂、将軍として230年ぶりに上洛。 1862 (普)宰相ビスマルク執政。
5 長州藩、下関で外国船を砲撃。 1863 (米)リンカーン、奴隷放を宣言する。
1864 元治1 7 長州藩挙兵、幕府軍と交戦(禁門の変)。 1864 ジュネーヴ条約(国際十字同盟結成)。
第一次長州戦争。 国際労働者協会(第一インターナショナル)結成。
1865 慶応1 5 第二次長州戦争。・ 1865 (米)リンカーン、暗殺される。
1866 慶応2 1 薩長同盟の密約が成立。 1866 普漢戦争始まる。
1867 慶応3 10 徳川慶喜、大政奉還。 明治
(在位1867~1912)
慶喜
(在職1866~67)
1867 スウェーデン人ノーベルダイナマイトを発明。
1868 明治1 1 鳥羽・伏見の戦い(戊辰戦争始まる)。 (独)マルクス、『資本論』第1巻を刊行。
4 江戸城開城。 1868 (英)第一次ディズレーリ内閣成立(保守党)。
7 江戸を東京と改称。 (英)第一次グラッドストン内閣成立(自由党)
1969 明治2 3 東京奠都。
5 榎本武揚ら、箱舘五稜郭開城(戊辰戦争終結)。
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